鋳 鍛 鋼 業 界 将 来 ビ ジ ョ ン ( 要 旨 )
平成18年10月  日本鋳鍛鋼会

  1.はじめに
     本年5月に経済産業省が 「素形材産業ビジョンー我国の素形材産業が目指すべき方向性」を作成し、
    各業界団体にも夫々の将来ビジョンの策定を求めた。折しも、鋳鍛鋼業界はバブル崩壊後に活力が失わ
    れ、新技術や新製品の開発に停滞感が感じられていた。また、最近では中国や韓国の競争力が強化さ
    れつつあり、将来強力なライバルとなると予想された。 そこで、夢のある明るい鋳鍛鋼業界にするため、
    当会では戸谷会長を委員長とし、鋳鋼と鍛鋼の各分野から専門家を募って将来ビジョン策定委員会を結
    成し、 「鋳鍛鋼業界将来ビジョン」の作成に取り組んだ。以下に、その要旨を述べる。

  2.鋳鍛鋼業界が歩んできた道
     鋳鍛鋼業界はこれまで電力、鉄鋼、化学、産業機械と言った諸産業設備や造船、自動車等の輸送機の
    心臓部に使用される重要素形材製品を供給し、我国と世界の経済発展に大きく貢献してきた。代表的な
    鋳鍛鋼品を写真1に示すように、数百トンにも及ぶ大型製品もある。

[ 鋳 鋼 品 ] [ 鍛 鋼 品 ]
火力発電用タービンケージング(59t) 原子力、火力発電用一体型低圧タービン軸材(250t)
レールクロッシング
組立型クランク軸
圧延用ロールハウジング(290t) 石油精製リアクター[鍛鋼品の溶接構造](1200t)
写真1 代表的な鋳鍛鋼品の外観

    鋳鍛鋼品の生産量を図1に示すように、鋳鋼は減少傾向を示し、 鍛鋼は増減を繰り返している。この生
   産量変化はオイルショックや為替の大幅変動、バブル崩壊等の政治的、経済的な出来事、他材料への
   代替、輸入の増加等に大きく影響された。その結果、特に鋳鋼業界では工場数や従業員数は大きく減少
   し、代価の下落もあって厳しい経営環境が続いた。
    最近の景気回復に伴って各企業の経営状況はやや改善され、売上高や営業利益は増加し、資金繰り
   や納入先も増加の傾向にあるが、図2に示すように利益率は依然として低く、一部には経営環境が最悪
   であった5年前と比較して改善されていない企業もある。
       図1  過去40年間における鋳鋼品と鍛鋼品の生産量推移(トン/年)   1965年 〜 2006年



       図2  2005年度における会員12社の売上高経常利益率の分布


  3.鋳鍛鋼業界が新たに歩むべき道の探索
     業界が抱える問題点と課題を会員各社との日頃からの懇談やアンケート調査および委員会メンバーか
    らの提案により収集した結果、極めて多くが出された。このうち、「将来ビジョン」に反映すべき問題点と課
    題を10項目に分類して表1に示す。なお、問題点と課題は中小型鋳鋼、大型鋳鋼、自由鍛造、型鍛造お
    よび共通に分類して抽出したが、殆どが共通に分類されたので、以後製品群別には分類しなかった。


    表1 業界の問題点と課題

(1)製造から見た問題点と課題
 設備の老朽化、資金不足による修繕の先送り、受注生産の宿命である機械化・自動化の遅れ等の問題点があり、生産効率も低い。中国・韓国の追随を許さない世界No.1の技術とそれを支える最新設備の導入が課題である。
(2)技術開発、製品開発から見た問題点と課題
 業界が成熟化し、新製品・新技術開発のニーズが乏しく、多品種・少量生産のため開発による利益も少ない。産官学共同のニーズ探索活動と開発資金等のインフラ整備による高付加価値製品の開発が今後の課題である。
(3)需要家業界との関連から見た問題点と課題
 最近では鋳鍛鋼の知識に乏しく、価格や納期にのみ関心を持つ需要家が多い。また、支払い条件や木型の保管条件も旧態依然としており、業界を下請けと見る傾向が残っている。今後は適正価格の維持、共同開発、相互理解、共存共栄が可能な対等な関係の構築が求められる。
(4)事業構造から見た問題点と課題
 当業界は成熟かつ下請け的経営のため、新事業のニーズが少なく、資金も不足している。今後は差別化技術を活かしたニーズの掘り起こしや産官学等との情報交換による国益性の高い航空機産業等の新規事業のニーズ探索が必要である。そのためには政府助成も必要である。
(5)職場環境・安全から見た問題点と課題
 設備が老朽化して3K職場となっており、環境、安全の面で不満足な状況にある。今後は作業環境の改善や自動化・機械化等の設備改善により、安全で快適な職場環境としていくことが求められる。
(6)地球環境から見た問題点と課題
 CO2の削減では燃料の変更や省エネ設備、工程の見直しが、産廃では削減とリサイクルが課題である。六価クロム等の有害物質が発生しない製造工程の開発や使用しない建屋、設備の選定が求められる。
(7)鋳鍛鋼業界から見た問題点と課題
 鋳鍛鋼業界の情報は少なく、断片的であるため、技術や設備の面だけでなく、経営の面でも妥当な判断が困難な場合がある。したがって、特に海外情報の収集は不可欠である。また、競合会社が乱立し、不況時に価格が大幅に下落するため、得意分野への特化による独自製品作りが必要である。
(8)情報収集から見た問題点と課題
 海外の鋳鍛鋼業界や需要家業界に関する情報が不十分であり、今後は海外のこれらの業界との交流を活発にして、役立つ情報を収集・共有化する必要がある。また、他業界や海外の学協会との交流・連携を深めることも求められる。
(9)人材から見た問題点と課題
 大学の金属系学科や講座が減少して有為な人材の採用が困難となっており、高校でも鋳鍛鋼業界への希望者は少ない。今後は人材育成機関・制度の充実および大学との共同研究や高校への「物造りの魅力」PR活動による優秀な人材確保が課題である。従業員の多能化や技能伝承も重要である。
(10)政府、銀行等から見た問題点と課題
 業界には経営基盤が弱い中小企業が多く、融資や税制の面で政府の支援が不可欠である。経産省に対しては、法律に裏付けられた助成制度の充実を依頼する。また、利益が需要家業界に偏らない公平な利益分配を経団連等に働きかけて貰う。

  4.鋳鍛鋼業界が目指す「在るべき姿」と推進計画
     前項の問題点と課題に基づいて業界の在るべき姿と実施項目を抽出し、それらを取り纏めて表2に示
    す「鋳鍛鋼業界将来ビジョン」とした。


    表2 鋳鍛鋼業界の将来ビジョン

(1)世界No.1の鋳鍛鋼生産技術を目指して
@追随を許さないQ・C・Dによる国際競争力の強化、 A業界No.1シェア製品の開発、 B情報システムを活用した効率的な製造プロセスの構築、C現有製品の高機能化、高付加価値化、 D重要技術の流出防止
(2)需要家業界との対等な共生関係を目指して
@製品開発段階からの素形材の共同設計・開発、 A商慣行の改善(手形条件、木型の保管条件等)、 Bパーフォーマンス・プライスの達成、 C鋳鍛鋼技術の国内外競合会社への漏洩防止
(3)業界内での競争と協調を目指して
@得意分野への選択と集中、 A協業による効率的な生産体制の整備、B原材料・副資材の共同購入、 C諸情報の共有化、定期的な交流・親睦による業界意識の向上
(4)新規事業、新分野製品の開拓を目指して
@大型超合金分野への参入、 A高機能化製品の開発、 B次世代向け各種システム開発
(5)情報・学術活動の活性化を目指して
@欧米先進諸国の鋳鋼業界との交流、 A海外競合メーカーの諸情報の調査・収集、 B政府・公共機関、他素形材団体との交流
(6)健全な地球環境及び職場労働環境を目指して
@「環境自主行動計画」に基づく計画的な環境活動の推進、 A安全で快適な職場環境の整備、 B有害物質の撲滅活動の推進
(7)有為な人材の採用と育成を目指して
@大学との共同研究による有為な人材の採用、 A高校への定期的な鋳鍛鋼産業のPRによる有為な人材の採用、 B入社後の教育・育成、 C業界をあげての技術・技能の伝承活動への取り組み
(8)政府等への要望
 @法律制定面での要望、 A運用・実施面での要望
(9)将来ビジョンの実施計画
 上述のビジョンに掲げた実施項目は当会の活動方針に反映させ、委員会や部会で取り上げて実行に移すとともに、会員各社でも経営計画に反映させて、業界の発展に役立てていく。



  5.あとがき
     鋳鍛鋼業界が今後目指すべき方向を将来ビジョンとして取り纏めた。今後はこのビジョンを行動に移す
    ことにより国際競争力を強化し、わが国は勿論全世界の発展のために貢献していく。その達成の暁には、
    会員各社は中国等の追随を許さない独自の高付加価値製品を開発して確固たる経営基盤を構築する
    とともに、需要家との共存・共栄が確立され、職場環境や労働条件が改善されて、若者が希望を持って
    働ける業界へと変身することが期待される。このような業界を目指して、今後業界が一丸となって活動し
    ていきたい。

  【ビジョン策定メンバー】
    1.委員長 : 戸谷会長(住友金属工業)
    2.委員長代行 : 岡田充功(住友金属工業)
    3.委員 : 村井悦夫(日本製鋼所)、北村信夫(神戸製鋼所)、川崎進(日本鋳鍛鋼)、
            鶴原誠(住友金属工業)、井沢秀紀(大同特殊鋼)、瀬尾省逸(大平洋製鋼)
            嘉松誠(日本鋳造)、岡村真一(宇部スチール)、瀬川勉(福島製鋼)
            井口哲一(大平洋特殊鋳造)
    4.アドバイザー : 野村英雄(日本製鋼所)、阿部央道(神戸製鋼所)、飯塚富矢(日本鋳鍛鋼)
                深谷研悟(大同特殊鋼)、菅昌徹朗(日本鋳造)、黒羽惇(福島製鋼)
                                  (※ アドバイザーは、当会副会長)